<四人の主人>
私の名はべス。今は、エドガン様の暖かな両腕に乗せてもらっている。なんと心優しい
お方なのだろうか一一一一一
「いいかい。人間には近づくんじゃない。奴らは非常な生き物だ。とてつもない悪魔だ。
人間をみかけたら、すぐさま逃げるんだよ」
亡き祖母がよく言っていた。非常? 悪魔? 何を馬鹿なことを…………むしろ天使のよ
うだ。あぁ、エドガン様。一生ついていきます一一一一
「エドガン様、村です」
オーリンが、低く、静かな声で言った。
「うむ。さぁ、帰ろう」
エドガンの足が自然に速くなった一一一一
「あら、エドガン様、オーリンさん、お帰りなさい」
「マレーニ殿」
一人の女が、エドガンに声をかけた。見るからに、親切そうな女性だ。
「例のアレは、見つかったのかい?」
「残念ながら、今日も…………」
エドガンが、顔を曇らせた。
(アレ? なんのことなのだろうか………)
「アレさえあれば、錬金術の研究がもっとはかどるんだろう? 早めに見つけたい代物だ
ねぇ………」
(錬金術……? エドガン様とオーリン様は、錬金術士なのですか?)
「ま、そう世の中甘くはありません。竜神様も、地道にやりなさい、と言っているかも知
れない…………」
「マスタードラゴン様も頭が固いんだねぇ」
三人の間に、笑いが起こった。べスも、嬉しくなった。
「エドガン様、そろそろ………」
「あ、うむ。それではマレーニ殿。私はこれで………『黄金の草』のことは気にしなくて
もよいのですぞ。いずれ、きっと、見つけてみせましょう。はっはっは」
「パパー! お帰り!」
「ぱぱ、おかえりぃ。おーりんも、おかえりなさぁい」
二人の可愛らしい娘が、エドガンの足下に駆け寄って来た。
「ははは。マーニャ、ミネア。いい子にしてたかい?」
「マーニャ様、ミネア様。ただいま戻りました」
「そうだ! お父さん! あたし、お皿洗いしておいたわよ! えらい?」
「ほほぉ。そうかそうか。偉い偉い。パパはなんにも言ってないのにねぇ」
「み、みねあだって、しゃらあらいしたもん!」
「ミネアはなんにもしてないでしょ!」
「みねあだってしたも〜ん。 えぇ〜ん」
ミネアが泣き出した。エドガンが微笑み、オーリンが戸惑った。マーニャはそっぽを向
いている。
「おいおいミネア。泣かないでおくれよ。パパが困っちゃうじゃないか」
「だってぇ〜、みねあだって、さりゃあらいしたのに〜!」
「ミネアのウソつき泣きムシ! まったくぅ。お父さん、いい子にしてたから、何かおみ
やげちょうだい!」
「みねあもちょうらい!」
ミネアも、泣きながらダダをこね始めた。
「よし、わかった」
エドガンがしゃがみ込んだ
「この子犬をあげよう」
(マーニャ様! ミネア様! 初めまして!)
「かわいい〜〜!」
「かぁいい!」
マーニャとミネアが、全身で喜びを表現した。マーニャは踊りまくり、ミネアはべスに
挨拶した。
「今日から、この子は家族の一員さ」
「名前はなんていうのぉ?」
「え? ………名前………う〜む」
エドガンは急に悩み始めた。名前を付けることなど全く考えていなかった。
「名前はな〜に?」
「名前………う〜ん………」
その時、ミネアが声を張り上げて、言った。
「ぺすた!」
(ぺすた?)
「ぺすたがいい!」
「ペスタって………この前村にやって来た旅芸人の名前かい?」
「私もペスタがいい!」
マーニャも賛成した。
「だって、ペスタ、すっごく面白かったもん! ペスタ大好き!」
「うむ。よ〜し、それじゃ、今日からこの子の名前はペスタだ!」
「やった〜〜〜!」
こうして、ペスタは、エドガン家の飼い犬となった一一一一
<続く>
|