<悪の存在=魔物>
「貴様ァ……またのこのことこの森に侵入してきやがって………」
ペスタが後ろを振り返ると、祖母達を殺した張本人、いたずらモグラがいた。残忍な笑
みを浮かべて、冷酷な瞳をギラギラさせて一一一
「この森は、オレ達魔物の縄張りだ。どうやら、前の一件だけじゃ、まだこりねぇみてぇ
だな………」
(まさか……こんなところで会ってしまうとは……なんたる不運………)
「この森に何しに来た?オレ達の住処に何しに来た?」
(………)
「こらぁ、なんとか言ってみろよ……ブッ殺すぞ………!」
(……殺す、だと………?)
ペスタは怒りをあらわにして、突然吠え始めた。
(殺すだと……!?ふざけるな!)
「な、なんだこの野郎………?」
(何匹殺せば気が済む!いい加減にしろ!お前には心はないのか!他人……他犬を思いや
る優しさなど、微塵もないのか!?お前達魔物が、何故人々に、動物達に嫌われるか自覚
しているのか!?心がない!お前達には心がない!!だから嫌われる!だれも、だれも友
達になってくれない!お前達の気持ちなんて、誰も理解できないんだ!!)
ペスタは、叫んだ。魔物に対する怒りが、爆発した。叫んで、叫んで、吠えて、吠え
て、吠え叫び続けて一一いつしか、涙をこぼしていた。魔物を哀れだと思った。悲しかっ
た。つらかった。
(だいたい、この森は私達が平和に暮らすためには必要不可欠なものだった!この森の与
える恵みが、私達の生きる糧となっていた!だが、いつしかお前達魔物もこの森に住み着
くようになり……そして!糧を独占するために私達を一人残らず殺そうとした!生き残っ
たのは、私だけだ!私達だって……私達だってお前達と……魔物達と仲良くしたかった!
共に、糧を分け合い、水を分け合い、ずっと暮らしていきたかった!でも、お前達は……
お前達は私達と仲良くしようとしなかった!私達を殺した!自分達だけが生きられるため
に!お願いだ……優しさを、心を、慈悲を見せてくれ……!頼む、頼むから………!)
だが、届かなかった。
「ギャアギャアうっせぇぞこのクソ犬が!」
届かなかった。
「二度とこの森に来れないように………!」
ペスタの哀願は一一一
「いや、二度と生き返れないようにはらわたを食らい尽くしてやる!」
と ど か な か っ た 。
一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一
(……? 攻撃が……こない。いたずらモグラ……どうした?)
「メラっ!」
愛らしい、幼い女子の声が轟いた。小さな火炎がいたずらモグラを襲った。
「ぐぉっ!?」
「やった!成功よ、ミネア、オーリン!」
マーニャだった。
「おねえちゃんすごい!じゃああたしも………」
ミネアも、マーニャに習って身構えた。
「ばぎっ!」
バギの真空が、いたずらモグラの身体を切り裂く。いたずらモグラは、苦しみもがい
た。
「すごいですよ!二人とも!」
オーリンが、マーニャとミネアを誉めたたえる。
「えへへ………」
「では、とどめは私めが………」
「待て、オーリン………」
木にもたれかかっていた男が、オーリンを止めた。男の名は、エドガン。
「し、しかしエドガン様………」
「魔物よ………」
瀕死の魔物に、エドガンは声をかけた。
「おとなしく去れば、生命だけは助ける……早く逃げろ。私達は追ったりしない………」
「だ……まれ………」
いたずらモグラは、焼けただれた胸と、千切れた腕の付け根をおさえながら苦しそうに
言った。
「く……虫ケラめ……人間め……クソ犬め………」
「もう、やめろ。ここで逆らえば、私はお前を……。できる限り、生きとし生けるものを
殺めたくはない……立ち去れ………」
「うるさい……黙れぇぇーーーーーー!」
いたずらモグラが、急に突進してきた。そして、片手に持ったスコップをエドガンの胸
に突き刺そうとした。
「死ねぇ!ひゃっはっはっはぁ!!」
(やめろ!エドガン様に触れるな!)
「……やむを得ん!」
エドガンが天に向かって両腕を高くかかげると、大気に光が集まり、今にも爆発しそう
なエネルギーのかたまりとなった。
「……イオラっ!!!」
エドガンの唱えたイオラが、いたずらモグラに直撃した。いたずらモグラは断末魔の悲
鳴をあげる暇もなく、跡形も残さずこの世から消え去った。
「はぁ……はぁ……苦しまずに……死ねただろうか………」
「す……凄い……お父さん凄いよ!」
「……!?はっ、エドガン様!?」
見ると、エドガンはその場でグッタリと横になっていた。
「お父さん!?」
「おとうさん!」
(エ……エドガン様!)
ペスタは、辺りを見回した。そして一一奇跡が起こった。
(……!これは!)
ペスタは、ついに見つけた。
(黄金の草………!)
<続く>
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