『エドガン家の犬』 ジャンル オリジナル
作者 Rocky さん
投稿日 2001.3/13.16:55
※久しぶりの『エド犬』ッス(略すな)今回は、自信作どすえ。





<善の存在=人間>


「私も行こう……」

 エドガンが、苦しそうに立ち上がった。

「お父さん!?」

「エドガン先生!?いけません!ただの風邪とはいえ動き回るのは体に毒というもの!安
静になさっててください!」

 ピレトが慌ててエドガンをベッドに寝かせようとした。

「大丈夫だ……」

 だが、エドガンは無理に笑ってみせた。

「エドガン先生……」

「ピレト殿。あなたの言う通り、私はただの風邪……安心してください。ペスタを見つけ
たらすぐに戻ってきます」

「し、しかし……」

「エドガン先生」

「……うむ」

 オーリンが、しゃがみこんだ。

「すまんなオーリン……」

 エドガンは、ごほごほ咳払いしながら、オーリンの背に負ぶさった。オーリンの強靱な
肉体は、エドガンの体重ぐらいではびくともしなかった。

「アタシも行く!」

「あたしも!」

「な、なにを言ってるんだい、マーニャちゃん、ミネアちゃん!?いくらエドガン様と
オーリン様が一緒だからって……!」

「……マーニャ、ミネア」

 エドガンが、数カ月前、ペスタに語りかけた時のような微笑みを浮かべながら二人に
言った。

「……ペスタは、お前たちのペットだ。仲間だ。……友達だ」

「当たり前よ!」

「ぺすたはともだち!」

「よし……ついてこい」


 一一その頃、ペスタは森を彷徨っていた。父から聞いたシエーナ草の生えている場所を
ど忘れしてしまったのだ。

 その夜の風はずいぶん冷たく、厚い毛皮を着たペスタにもひどく厳しい寒さだった。

(シエーナ草……黄金の草……)

 ペスタは、探し求めている草の名を呟きながら、時にはあっちへ行ったり、時にはそっ
ちへ行ったり一一

 もう、体力も限界を迎えていた。

(……こんなはずでは……すぐに草を採って、エドガン様の御病気を治すはずが……

 ……いったん、家に戻った方がよいのだろうか……? ……いや、こうしている間にも
エドガン様は苦しんでおられるのだ。早く……一刻も早く……草を見つけなければ…
…!)

 ペスタは、匂いをかぎまくった。昔、一度だけ、黄金の草の匂いを、父たちには内緒で
かいだことがあったのだ。今でも、ハッキリとその匂いを覚えている一一何か、どこか物
悲しく、懐かしさを感じる匂い一一そんな匂いだった。忘れられない匂いだった。

(……母上たちは、どんな気持ちで逝ったのだろうか……?)

 ペスタは、ときどきそんなことを考えた。自分だけが生き残っているのが、今でも信じ
られなかった。

 母は、ペスタを庇って死んだ。いたずらモグラのスコップが、ペスタの頭に突き刺さり
かけたところを、犬ならではの素早さでペスタの前に立ちはだかり一一見るも無惨な光景
だった。刺されたのは母だったはずなのに、自分の顔が異常に痛くなるのを感じた。

 祖母と父は、大ミミズと死闘を繰り広げた。魔物といっても、大ミミズなどは雑魚モン
スター。それなりに互角の勝負を展開していたが、一瞬の隙をつかれた。祖母は腕をかじ
られ、父は眼をえぐりとられた。

 いたずらモグラは、大ミミズがかじった腕を、大ミミズがえぐりとった眼を、おいしそ
うに、おいしそうに……むしゃむしゃと、食べていた。

(なぜ魔物はこの世にいる?)

 魔物が存在して、この世に何かプラスになるものはあるのだろうか一一確かに、魔物の
中にも例外はいる。ごく稀に。人間になったスライムのスラリンや、人間と共存している
アンクルホーンのアンクルもいる。だけど一一

 だけど一一だけど一一一一だけど…………!

 魔物なんてこの世にいなければいい。魔物がいなければ悲しみは薄れる。魔物がいなけ
れば喜びが溢れる。魔物がいなければ、永遠の平和が約束される一一!

 永遠の……平和……?

 約束されるのか……?本当に……?

 魔物だけが世の中の邪悪なのか……?魔物だけが非情な悪魔なのか……?

『人間は悪魔だ』

 祖母の言葉が、ペスタの脳裏をかすめた。いや……

(人間は……天使……エドガン様や、オーリン様や、マーニャ様や、ミネア様や、マレー
ニ様や、村の人々……あの人たちが示してくれてるではないか。人間は、完全なる、善の
存在だと一一)


(……はっ!)

 ペスタは、我に返った。自分ではわからないだろうが、顔が異常に青ざめていた。

(私は何を考えていたんだ……)

「おい、貴様」

(!?)

 ペスタは、おぞましい声に反応した。そこには、いたずらモグラがいた一一


<続く>