ロトの勇者 ぶちょうの憂鬱
〜『ゆううつ』って書けますか?〜
ジャンル ドラクエ関連
作者 ぱかぽこ さん
投稿日 2001.10/28.00:48
前書き:うちのタナゴは立って寝ている。頭を下にして、微動だにしない。側面をこちらに向けているときは良いのだが、背面を向けていると、彼がどこにいったかわからなくなってしまう。タナゴはとても奥深い。








  ドラクエ、ってなんだっけ・・・。こんなのだっけ。

  題:ロトの勇者 ぶちょうの憂鬱  〜『ゆううつ』って書けますか?〜  真実編 3


                                       ぱかぽこ 作



 私は、見慣れた天井を見ていた。鎧戸の隙間から、日の光が入ってきていて、部屋の中は薄明るかった。さっきまで、起きていたのか寝ていたのかは、はっきりしなかった。気が付いたら、私はここにいた。
 酷く喉が渇いていた。寝汗もぐっしょりかいていた。起き上がると頭が痛んだ。強張る関節を無理やり動かして、私は鎧戸を開けた。外は、思ったよりも薄暗かった。まだ完全に日は昇っておらず、オレンジ色の陽光はまだ目を射るほどではなかった。
 空を切る音が、朝日で輝く若葉の茂る、ローリエの枝の下から聞こえてきた。そこには、鞘に入れたままの剣を片手で素振りする、ブローズがいた。左手で30回、右手で20回、それを3セット繰り返して、そうして彼は天を仰いだ。
 上り始めた陽光が、彼をオレンジ色に染めていた。
 彼は、ちゃんと眠れたのだろうか。少し疲れているようにも見える。
 空を仰ぐ彼の瞳には、一体何が映っているのだろう。今の空には、雲しか無いのに・・・。
 しばらくそうしていたブローズは、やがて何かをあきらめたのか、二三度首を振り、両の手で頬を叩いて気合を入れるかのような仕草をし、剣を抱えて家に入ろうとした。そこで、私の視線に気付いた。険しい顔で、私を見上げて、私に気がつくと・・・。
 私と目があうと、彼は、・・・。
 屈託の無い笑顔がそこにあった。
 私は、窓際から、二歩下がった。

 太陽は、目に見えて上ってきた。紺色の空に映えていた白い雲は、朱色の光を受けて、あかく色づいた。しかし、それもほんのひと時の事で、朱色から黄、またいつものように、白色へと戻っていった。
 赤く照らされていた町並みも、潮が引いていくように、いつもの朝を迎えていた。
 また、今日が始まった。

 私は、夢を見ていたようだ。父に抱かれる私、砂漠の扉、布に飾られた部屋、中央に座する老婆、赤い布、甘い水、闇闇闇、そして茶色の小瓶・・・。私は中を舞い、時には赤子になり、そこにあった物全てを見ていた。しかし、本当にあれは夢なのだろうか。時折聞こえた母の声は、昨夜ブローズの部屋で、聞いたような気がする。けれども私の記憶は、全てが混沌として、どうにもはっきりと思い出せない。全てが夢のようであり、全てが現実のようでもある。
 ・・・「マーキユ」と言っただろうか?宙に浮いた私をこねて小瓶に詰め、赤子の私に飲ませようとした老婆。彼女は私に、選択権を与える、と言った。私自身を選べと、男か女か、好きなほうを選べと、言っているのだろうか。あれがただの夢でなければ、私は、男なのだ。いきなりそう言われても、はあそうでしたかと言うしかない。今まで思っても見なかったことだ。私は、そういうふうには育てられていない。今まで女として周りから扱われてきたし、私自身信じて疑わなかった。
 ・・・あぁ、全てが夢であったなら、こんなに簡単なことは無い。またいつものように、暮していけば良いのだから。しかし、得体の知れない確信が、一夜の出来事を夢のような現実として、私の心の中に刻み込んでいた。
 ブローズは、母から何を聞いたのだろうか。私の知らない私のことを、打ち明けられたんじゃないだろうか。母は、私のことを、本当のことを知っていて、今まで隠していたのだろうか。
 疑問は尽きることなく、私の脳裏を支配していた。

 朝食の雰囲気はいつになく酷いものだった。よく出汁の効いている塩味のないスープと、炭のように焦げたパン。それを母は黙々と食べていた。冷めていないだけまだ良かった。比較的食べられそうなパンと、塩と胡椒をブローズに渡し、私は母を見た。やつれた母は血の気がなく、疲労の色が白い顔に濃い影を映した。私は震える喉を必死に抑えて、何とか声を出すことが出来た。
 「ねえ、母さん。・・・昨日のこと、もう一回ちゃんと聞きたいんだけど・・・。」
 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・えっ?」
 「昨日、話したこと、もう一回ちゃんと聞きたいの。」
 「きのう・・・。あぁ、昨日のことね。昨日・・・、何だったかしら?」
 「・・・。母さんが、ブローズの部屋に来て話したこと。・・・憶えてる?」
 母の視線は中をさまよい、ブローズの上に止まった。二三度目を瞬かせて、母は微かに唇を動かした。そしてうつむき、瞳を閉じた。
 「・・・そう、そうだったわね。ごめんなさい。まだぼうっとしてしまって、・・・・・・・・・やだ、これ、パン?」
 母は手に持った炭(?)をしげしげ眺めて、スープを一口。口に含んだ直後、眉をしかめた。
 「・・・・・・・・・・・・・・・はぁ、駄目ね。作り直すわ。」
 「あ、塩コショウだけでも結構美味しいですよ。」
 ブローズのフォローに、母は微笑して席を立った。
 「ありがとう。」
 母は一言その場に残して、台所に入っていった。

 黙々と少々固めのパンを頬張り、それを自分で味付けたスープで流し込むブローズを、私は時折盗み見ていた。
 女性の中では体格の良いほうだと思っていた私より、一回りも二回りも広い肩、長い腕脚、大きな手。
 私は自分の手の平を見つめた。魔物相手に剣を振っていた頃のまめは、僅かに未練を残していた。水仕事で荒れてはいるが、それが益々女らしい。知らず知らずのうちにため息をついていたようだ。
 「どうかしたのか?」
 ブローズは食べる手を止めて、私を見ていた。私は慌てて首を振った。
 「ごめんなさい。お待ちどうさま。」
 母の言葉にさえぎられて、私の言葉は喉の奥で消えた。

 食事の後、母はとつとつと語り始めた。
 「あなたが生まれてすぐ、そうね三、四日目くらいだったと思うの。あなたは三時間おきにお乳を欲しがるから、・・・むずがって泣くの。夜は辛かったけど、お腹がいっぱいになるとげっぷして、満足そうに笑うのよ。もうそれがかわいくてね、無事に生まれてきてくれたことが嬉しくて、全然苦じゃなかったわ。四日目の夜だったかしら。物凄い睡魔に襲われて、気がついた時にはもう次の日の夕方近くになっていた・・・。丸1日あなたを放って置いたことになるのだけれど、あなたは泣いていた様子もないし、それに赤い布に包まれていたの。」
 母は口をつぐんだ。テーブルの上を見つめる瞳は微かにゆれていた。
 「そんな布を巻いた覚えはないし、なのにあなたは心地良さそうにねむっていた。私はその赤い布を取った。だって私はそんなもの知らなかったから、気味が悪くて、夢中で取った。そうしたら、あなたはむずがって、泣くの。いくらあやしても、ちっとも泣き止んでくれない。でも、お乳も飲まないし、おむつだって濡れてないのよ。」
 顔を上げた母は、切なそうに私の瞳を見つめ、唇をかんだ。
 「赤い布をあなたに、返す、と・・・、あなたはそれだけで泣きやんで、嬉しそうに笑った・・・。その夜から、覆面をしたあの人が現れて、あなたに何かを飲ませていた。一週間くらい続いたかしら、そしてあなたは男の子ではなくなっていたの。その時から、あなたは・・・。」
 母は、目を伏せてため息のように言葉を吐いた。
 「・・・あなたは、私の子ではなくなってしまった。あの人と同じ、勇者にしなければと、思ったの・・・。」
 しかし、母はすぐに激しく首を振り、違う違うと、うわ言のように何度も呟いた。
 「違うの、私は・・・。あなたは、間違いなく私の子。私の愛する唯一人の子。例えあなたがどんな姿になろうと、私は・・・。愛しているわ、ぶちょう・・・。」

 夢は、現実になった。
 私は部屋に戻り、後ろ手に扉を閉めると、そのまま崩れ落ちるように座り込んだ。なぜか酷く、気が抜けてしまった。背中に感じる扉の硬い凹凸は、私の意識を儚い力で、この場に繋ぎ止めていた。
 まなかいにあるベッドや鏡台が、小さい窓からもれる光によって、黒い巨大な影になった。それは、砂漠の中を歩いていた父の姿に似ていた。
 父は、母に何も言わなかったのだろう。父も私たちと同じようなことを考えて、私が勇者にならないように、あんな行動を起こしていたのに。それは、父なりの愛情だったのだろうか?それなら、言って欲しかった。もっと、解り合い、信じあいたかった。
 全てはもう、二度と手に入らない。父はもういない。
 ここから見える小さな空は、ぬけるように青かった。きっとこの空はどこを切っても、あくまでも青く、青すぎて、今の飢えた私には曇天のほうが心地よかった。
 今日何度目かわからないため息をついて、私は思い切って立ち上がってみた。ひざが震え、少しめまいを感じたが、じきにそれらは収まった。
 「あの・・・、いいか?」
 ノックの音とともに響いてきたブローズの声が、倦怠にまみれた私の体には心地よかった。
 私はドアを開け、ブローズを招いた。
 「あ、あのな・・・。俺は・・・。」
 「ねえ、ブローズ。」
 「?」
 「お願いがあるの。」
 私はこの部屋唯一の窓を背にして、ブローズを見つめた。人の良さそうなブローズの顔が、私には良く見えた。逆に彼には、私の表情は見えないだろう。今日は私が影になった。
 「確かめたいの。私が、今どちらであるのか・・・。」
 「・・・え?」
 「・・・・・・見せて、全部。お願い。」
 ブローズの表情が、驚きと困惑とで固まった。何かを言いかけ、しかし口をつぐんだ。
 「お願い・・・します。」
 ブローズは固まったままだった表情をほっと崩して、自らのベルトに手をかけた。
 「・・・いいよ。でも、俺にも言わせてくれ。・・・何があっても、俺には敬語を使うな。絶対に、だぞ。」
 「ごめん。」
 「謝るのも無し。・・・今一番辛いのはおまえなんだから。」
 「・・・ありがとう。」
 ブローズは、にかっと笑って、
 「それでよし。」
 と、言った。
 そして、彼は思い切りよく脱ぎ始めた。
 次第にあらわになるブローズの、男性というものの体。
 広い肩に合わせた広い胸板。腕なんかは私のそれより一回りも二回りも太い。全体に筋肉質で、所々に刀傷や矢傷の跡があった。何より、あれは私にはない。これは、私とは違う体だ。
 じゃあ、私はまだ、やり直せるのだ。
 「・・・やっぱり、ブローズと私とでは違うのね。」
 事実は私が女であること、真実は私が男であったこと。私が私であるのは、こんなにも大変なことなのだろうか。
 私はブローズの胸板に額を預け、目を閉じてため息をついた。
 「・・・ブローズは、私がどっちであったらいいの?」
 「一応、・・・俺は男だから、やっぱり・・・・・・・・・女の子がいいなぁ。今のままでもいいけど・・・。それは、嘘になるかな。俺とおまえの子供、十人位欲しいし・・・。年取ったら賑やかでいいだろ?・・・・・・だめか?」
 私は、そっとブローズを抱きしめた。ブローズもまた、私の背中に手を回し、それに答えた。すると、私の中にある熱く疼いているものが益々激しく暴れだし、私は思わずそれをため息とともに吐き出した。
 「・・・・・・・・・・・・・・・だいすき。」
 「!!!!!!」
 ブローズは震えた。素肌で触れ合う感覚は、鮮やかに私の中へと入っていき、私は彼と同じ思いを共有した。
 「・・・俺は、最初からだ。」

 私、女になる!







    邂逅編 1 に続く





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 何とか、無難にまとめられた。良かった・・・。一時は五流ポルノになるところだった・・・。
 本当に、良かった(脱力)・・・。

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