ロトの勇者 ぶちょうの憂鬱 〜『ゆううつ』って書けますか?〜 |
ジャンル | ドラクエ関連 |
作者 | ぱかぽこ さん | |
投稿日 | 2001.5/20.02:50 | |
前書き:料理といえば、○平犯科帳や○ォーチュン・クエスト(一部の人には分かるかも)などが有名ですが、ドラクエの世界の人々は何を食べているのでしょうか?手ごろなのはやっぱり・・・。 |
一応『ドラクエ関連』ということで。 題:ロトの勇者 ぶちょうの憂鬱 〜『ゆううつ』って書けますか?〜 完結編 3 ぱかぽこ 作 私がひとしきり泣いて落ち着いてから、私たちは荷物をまとめてルイーダの酒場を後にした。ルイーダの視線は、相変わらず厳しかった。その様子を見てブローズは、そっと私に耳打ちした。 (ルイーダさん、どうしたんだろう・・・?) (・・・・・・・・・・・・・・・。) (朝からあんな感じなんだよ。稽古していたら睨まれちゃったし、俺の朝ご飯、他の人よりおかずが一品たりないし・・・。俺、何かしたのかな?) 本気で悩んでいる様子ではあったが、私には彼に全てを話すことがためらわれた。根が真面目なだけに、自分がルイーダに何をしたかを知ってしまうと、『責任とります』と言って、酒場の亭主になりかねない。いや、その前に、リュウの嫁、ロキの嫁、私の亭主に山羊の父、犬の母、すずめの息子などなど、一年一人(一頭、匹、一羽等々)のサイクルでいっても、ルイーダにたどり着くのは数十年かかるだろう。 (・・・さあ、何だろうね・・・。そんな日もあるんだよ、きっと。・・・そうだぁ、今日の夕食は、しびれ海月とスライムの御浸しと、大ガラスの串焼き(アリアハン風)と、大アリクイ鍋だよ。気に入ってもらえると嬉しいんだけど・・・) (ほんとに!?アリクイ鍋好きなんだよ!) (ほんと!?よかったぁ。) 私は適当に話を濁して、話題を変えた。 途中、私と母との会話を話し、口裏を合わせた。ブローズは怪訝な顔をしたが、何も言わなかった。私にはその方がありがたかった。 「ただいまぁ、母さん。お客様を連れてきたわ。」 「お帰りなさい。まあまあ、ブローズさん、娘がいつもお世話になっています。ようこそいらっしゃいました。のんびりしていって下さいね。」 「はぁ、どうも、お邪魔します。」 ブローズは少々緊張した面持ちではあったが、人懐っこい笑みを浮かべた。 人一人違うだけで、家の中の空気がこんなにも違ってくるのかと、私は心の中でため息をついた。空々しかった部屋の中が、いつのまにか春のように暖かい。とても和やかな空間になった。 ひとまず、荷物を片付ける為、私はブローズを2階へと案内した。ブローズに使ってもらう部屋は、父オルテガのために用意してあったものだ。母が毎日掃除をしていたので、部屋はとても片付いている。ベッドカバーも週に一度は洗濯をしているのであろうか、こざっぱりとしていた。 私は今初めて、この部屋に入った。 ブローズと簡単に荷物を片付けていると、下から「お茶にしましょう」と言う母の声が響いてきた。 私たちは片付けを途中で切り上げ、少し休憩することにした。気づけばもう昼を回っていた。母が用意したチキンサンドとキノコのスープは、あっという間に無くなった。食後のお茶で一息ついて、私たちは再び、荷物の片付けを始めた。 着の身着のままで旅をしていた為か、数少ない着替えは、汗と垢にまみれていた。それらの洗濯と、破れた衣類、外套、鎧の補修、萎れて効果の薄くなった薬草類とカビの生えた保存食を処分し、一息ついた頃には、もう日が暮れていた。いつのまにか、どこの家からも良い匂いが漂ってきていた。 ブローズには着替えを渡し、先に風呂でさっぱりしてもらうことにした。着替えは体格の良かった父の物であったので、やはり並みの体型のブローズには大分余った。仕方が無いので、袖とズボンの裾は折り曲げて仮縫いし、ズボンのウエストはベルトで留めた。上着は、無理にまとめるとワンピースになってしまったので、子供用のスモッグのようではあるが、そのままで我慢してもらった。それを見た母は、笑いをこらえるのに必死で、まともにブローズを見られなくなってしまった。 食卓には、いつものように3人分の食事が並んでいた。 食事は終始、和やかだった。特に、私達の旅の話題で盛り上がった。 私とブローズ達が出会ったきっかけ、ロキと女海賊との対決(酒)、ブローズがバブルスライムと添い寝して、翌朝には瀕死の状態で発見されたこと、などなど話題は尽きなかった。 母も私も良く笑った。久しぶりに、楽しい食事になった。 私達は程よく笑い疲れて、自室に戻った。私は部屋のランプを灯し、ベッドに身を投げて、瞳を閉じた。とても心地よい疲労感に、私の意識はそのまま落ちていきそうになった。そこで、はたと気が付いた。 私はまだ、ブローズに礼を言っていなかった。表面上は楽しそうに見えたが、私達に大分気を使っていてくれたようだ。とても気疲れさせてしまったと思う。礼を言わなければいけない。 私の意識は、完全に覚醒した。 私は、ブローズのいる部屋のドアを、控えめにノックした。この扉はそんなに厚くないので、多少の音でも部屋中に響く。程なくして、ブローズは扉を開けた。 「・・・ごめん、ちょっといいかな?」 ブローズはにっこり笑って、私を部屋の中に招いた。ランプの灯かりは部屋の中を、オレンジ色に染めていた。ブローズはベッドに、私は椅子に腰を落ち着けた。このランプの灯かりでは、二人の距離は遠すぎて、お互いの表情はよく読み取れなかった。 「あの・・・、今日はありがとう。何か、色々気を使わせたみたいで、悪かったね。」 「・・・気にするな、大した事はない。飯もめちゃめちゃ美味かったし、あのアリクイ鍋はやっぱ最高だな。それだけでも、来たかいがあるって言うか・・・。」 「えぇっ!私は、アリクイ以下?」 「はははははは、冗談冗談。」 そこで、なんとなく会話が途切れてしまった。ランプの炎がはぜる音が聞こえる。何か話そうとは思うのだが、気の利いた言葉が出てこない。私達はしばらく炎の音だけを聞いていた。どこかで犬が鳴いている。 不意にブローズが口を開いた。 「あのさ・・・。」 そしてまた、黙ってしまった。考え込むように口をつぐんでいる。 「・・・ブローズ?」 「いや、・・・うん、あのさ、ちょっと気になったんだけど、俺が口出していいものかどうか・・・。」 「・・・なに?」 彼は何を言う気だろう。なぜだか、とても嫌な予感がした。何でこんなに不安になるのだろう。 ブローズは、それまで伏せていた視線を上げ、じっと私を見つめた。 「もしかして、オルテガさん・・・親父さんが亡くなったこと、おふくろさんに言ってないんじゃないか?」 ブローズは、私から視線を外さなかった。そのまま無言で、私の答えを待っていた。その目は責めるでも蔑むでもなく、ただ私を見つめていた。ゆれるランプの灯かりのせいか、それはとてもやさしく見えた。だが、私はその視線に耐え切れず、目をそらしてしまった。 「言ってないのか?」 「・・・・・・・・・・・・・。」 「・・・・・・なぜ?」 私は、うつむいて顔を覆った。 なぜ?なぜ?なぜ? 母は父を待っている。父が旅に出てから、母は父が帰ってくるのを、私が旅に出てからは一人でずっとずっと待っていた。そのときの気持ちは、私が考えるほど甘く軽いものではないのだろう。だから、あんなにも私の言動に気を使うのではないか?父が死んだことがわかったら、もう一人にはなりたくないと、私を放さなくなるのではないか?そして、私は一生この家で、暮らしていくことになってしまうのではないか? そして父は、母が一人で辛い思いをしていたときに、父は・・・。 「言えるわけがない!父は、・・・父は、名前まで偽って他に家庭を作って、私に弟までいて・・・。あの子は、私の小さいときにそっくりなんだよ。間違いなく、父の子供・・・。・・・父が死んだとわかったら、母は父の足跡をたどって、旅に出てしまうかもしれない。そして、真実を知ってしまったら・・・?・・・母は、父の帰りをずっと待っていたんだ。だから、何をするか・・・わからないの。・・・だからこのまま、何も知らないで母は父の帰りを待って、私はこの家で暮らしていきたいの。ブローズは、変わった。強く、たくましくなった。でも、私は変わってはいけない。今の生活を壊してしまうから。今よりももっと、寂しい家になってしまうから。」 私は、また逃げている。今度は父の死。見たくないものには蓋をして、触れたくないものには包装して、誰にも見つからないように隠している。けれども、慎重に隠していたいはずなのに、なぜブローズに話してしまったのだろう。 「でも、ね・・・。一番の理由は、多分・・・。」 私は微笑もうとしてみたが、顔が強張っていて、うまく笑えなかった。これを他人に認めてしまうと、私達親子の関係は、一体どうなってしまうのだろう。少し、恐かった。 「私は、父の代わりには、なりたくなかった・・・。」 勇者に、なりたくなかった。なにより、母に期待してもらいたくなかった。ただの娘として、見て欲しかった。けれども、それは他の人にとっては許されないことだった。私は『勇者オルテガの子』だった。 父が死んだことが皆にわかってしまえば、私は『勇者オルテガの子』としてこの先生きていかなくてはいけない。私にはちゃんと、私の名前がある。『勇者オルテガの子』の中には、私はいない。あるのはオルテガの功績、影だけだ。 あぁ、嫌だ。嫌だ、嫌だ、嫌だ! 「私は、私のままで、誰の為でもなく私の為に、生きていきたかった。母にも父にも、本当は皆にも、束縛されたくなかったの。だから、母には父が死んだことは内緒にしておかなきゃ・・・。でないと、今よりももっと息苦しくなってしまう。私には、母も父も、勇者の称号も、とても重いの・・・。今でもう、精一杯なの・・・。」 隠していたかったはずなのに、本当は誰かに話してしまいたかったのだろうか、驚くほど私の心は晴れていた。私は深くため息をついて、ブローズを見つめた。ブローズは慰めてくれるだろうか?怒るだろうか?それとも・・・。 ブローズは、音もなく立ち上がり、扉へと向かった。 「俺はね、おまえがアリアハンに戻ってきたことに関しては、どうしても怒る気になれないんだ。俺だって、納得いかない事だらけだったからな。おまえが居なくなったことで、もしかして帰る道があるんじゃないかって、希望が湧いてきたから、感謝してる。でもね、親父さんが亡くなったことは、伝えた方がいいんじゃないかと思う。だって、おまえ、辛いだろ?」 ブローズは、扉のノブに手をかけて、引いた。 「だから、俺は間違っているとは思わない。」 ブローズは半身を引いて、扉の向こうに立っていた人を、私に見せてくれた。 彼女はコップと水差しの載ったお盆を持ち、目を見開いて立ち尽くしていた。 「・・・・・・・・・・・・あの人は、死んだの?」 真実編 1 に続く @@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@ 親父の覆面海パン姿話も入れたかったんだけど、無理でした。ポポタのみです。次回の真実編って何?と思う方が多いのではないかと予想してます。それは読んでのお楽しみ。それも3まで続くのかしら。行き当たりばったりだけはしたくないなぁ。 @@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@ |