ロトの勇者 ぶちょうの憂鬱
〜『ゆううつ』って書けますか?〜
ジャンル ドラクエ関連
作者 ぱかぽこ さん
投稿日 2003.8/19.00:41
前書き:○ラえもんの道具で、空間を作れるカッターというのがありまして、前からとても欲しいと思っていたのです。だって、部屋作りたい放題、収納スペース作りたい放題。ワクワクしません?秘密基地チックで。








  題:ロトの勇者 ぶちょうの憂鬱  〜『ゆううつ』って書けますか?〜  邂逅編 3


                                       ぱかぽこ 作



 まさか、今一番会いたかった人に、こんなにも早く会えるとは、私は全く思っていなかった。ブローズだって、予想もしていなかったと思う。
 まさか、瞬きの間にあの不思議な空間へ飛んでいようとは。
 闇の中に浮かぶテーブルとイス。そして色とりどりの布、仄かに香る花の香り。
 「・・・なんで、ここに・・・。」
 ゆるりと空気が動いた。
 私の手を包んでいた柔らかな小さな手が、するりと離れた。
 「まーちゅ!!」
 「おやおや、随分と乱暴に連れてきたものだねえ。」
 振り返ると、若い女性と彼女に駆け寄る子供がみえた。子供は奇声を発して女性に飛びついた。
 いや、既に子供ではなかった。胴体は光沢のある黒い鱗に覆われ、地を蹴る足は太く、足先には同じく太い爪がついていた。鱗は、光を受けるごとに緑色に輝いた。頭に生えた小さい角には、まだ若々しい節がついていた。すっかり生えそろった鋭い牙をむき出して(笑っているのか?)、女性に抱かれ、青い大きな瞳を細めて気持ちよさそうに喉を鳴らした。赤い布が良く映えた。小さいけれど、立派なドラゴンだった。
 違和感をおぼえて膝を見ると、傷はきれいに消えていた。
 「よしよし、お疲れ様。悪戯なんかしなかったろうね。ちゃんと言いつけを守ったかい?」
 「きゅうん。」
 「おや、あたしはちゃんと見ていたよ。」
 「・・・きゅん。」
 「ふふっ、後で彼に謝らなきゃねえ。もう一度行っておいで、わかるだろ?彼を連れて来るんだ。」
 ドラゴンは、首をかしげて彼女を見つめた。彼女は微笑を浮かべ、片腕を何も無い空間に差し伸べた。
 とたんに闇の中に風景が浮かんだ。つい先程までいた、ロマリアの町並みがそこにはあった。雑踏の中、片手に何かの串焼きを持ち、人を器用に除けながらブローズが歩いていた。
 「彼だよ、憶えたかい?」
 「きゅるるるる!!」
 「よし、じゃあ行っておいで。」
 彼女は、ドラゴンに手をかざした。金色の光に包まれたドラゴンの体は、徐々に形を崩し、光の球体となった。それは表面を七色に輝かせ、彼女の手を離れた。ゆっくりと下降し、地に降り立つ頃には再度先程の子供の姿になった。
 「いきゅっまちゅっ!・・・まーちゅ、おかしゅーた。」
 彼女は軽やかに笑って、何処から取り出したのか、大きな飴玉を子供の口に放り込んだ。子供は口の中で飴玉を転がし、満足げに微笑んだ。
 「いきゅちゅ。」
 「はい、いってらっしゃい。」
 子供の姿が、泡のようにはじけて消えた。
 彼女の視線が、私の上で止まった。意志の強そうな二重瞼の眼差しで私を見つめた。ゆるく波打つ黒髪を、そのまま背中に垂らし、口元には紅を刷いていた。
 彼女は光沢のある緋色のドレスをひるがえし、私に近づいてきた。
 私の前に立つと、彼女はため息をついて私を抱きしめた。
 「大きく、おなりだね・・・。」
 彼女は、どこか懐かしい、とてもいい匂いがした。
 「マーキユさん・・・。」

 ドラゴンの子が、再びロマリアからこの空間へ戻ってくるのに、そう時間はかからなかった。ブローズに抱かれながら、彼が持っていた串焼きの残骸をしゃぶるその口で、ドラゴンの子は言った。
 「ちゃーま。」
 「はい、おかえり。今度はちゃんと言いつけを守ったね。」
 「きゃー!」
 よしよしと、マーキユはドラゴンの頭を撫でた。ブローズは、マーキユの顔を見つめ、首を傾げた。
 「どこかでお会いしたことはありませんか?」
 マーキユは朗らかに笑って、それに答えた。
 「会ったことは無いはずだけど・・・。こんな所で口説かれるとはねえ。」
 「あ、いや、そうではなくて、あの・・・。お年寄りだと聞いていたし、・・・あああ、そうじゃなくて・・・。」
 わたわたと言い訳をするブローズに、マーキユは必死に笑いをかみ殺していた。
 目じりに涙を浮かべながらブローズに謝罪し、彼の手からドラゴンを受け取り、マーキユは彼に頭を下げた。
 「色々と大変な目にあわせてしまったようだね。礼を言うよ、ありがとう。」
 その様子に、ブローズは大いに慌てたようで、必死に、頭を上げるようマーキユに懇願した。迷う手が、宙で右往左往していた。
 ほんの一息の間だったと思うのだが、ゆっくりと頭を上げたマーキユのふと息をついた調子に、何時間もたったような錯覚を起こさせた。
 「こんなもんじゃ、ちっとも足りない。何か望むものがあったら、遠慮なく言っとくれ。」
 「そんな・・・、かまいませんよ。もう十分ですから。」
 「いや、この子がつらい時にいつも側にいて支えてくれていたこと、感謝しても仕切れない。今でなくてもいいから、気がついた時に言っておくれ。できる事なら何でもさせてもらうよ。」
 マーキユは、一瞬私に視線を移し、またブローズを見つめた。その刹那の表情は、泣いているように見えた。
 「・・・わかりました。そのうちに・・・。」
 ブローズも気がついたのだろうか?ちょっと目を見開いて、あっさり引き下がった。
 マーキユは、私たちにイスを勧めた。テーブルの上には、既にカップが三つ湯気を立てて並んでいた。
 イスに腰掛け、三人がそれぞれお茶で一息ついた後、マーキユは私に尋ねた。
 「心は、決まったかい?」
 ドラゴンは、マーキユの腕の中で大きなあくびをした。マーキユは、ドラゴンを抱えなおした。
 「・・・大体想像はつくが、一応聞いておこうかね。」
 「はい、女の子になりたい・・・、と思いました。」
 「わかった。後戻りはできないからね。・・・後で後悔するんじゃないよ。」
 マーキユは視線を私からブローズに移し、付け加えた。
 「後悔させるんじゃないよ。」
 「・・・心に誓って。」
 二つの視線がぶつかり合った。少しも揺るがないブローズの視線に、マーキユは満足そうに微笑んだ。
 「さて、ここでの最後の大仕事だ。気合を入れていくかね。」
 「最後?」
 私たちは同時に尋ねた。
 「・・・帰ろうと思ってね。オリハルコンも手に入ったことだし・・・。」
 「!あの時の・・・?」
 マーキユは微笑して、それ以上は語らなかった。あまりにも悲しげな微笑だったので、私はそれ以上聞けなかった。
 「さてと、・・・落ち着いたかい?」
 「・・・はい。」
 「少し待っていておくれ。準備をしてくるから。」
 マーキユはドラゴンをブローズに託し、赤い更紗の布の奥へと入っていった。
 ドラゴンはブローズの腕の中で、すやすやと寝息を立てていた。それを重そうに抱えなおし、私の顔をじっと見つめた。私は少し、目線をずらした。
 「・・・あのね、あの・・・、ありがとう。ブローズがいてくれて、本当にありがたく思ってるんだ。あのままだったら、ぐずぐずと腐って、全部回りのせいにしていたかもしれない。まだ迷うことや失敗することは多いけど、ブローズと一緒だったら、きっともう大丈夫だって、そんな気がするんだ。」
 私は思い切って、ブローズを見た。多分、私の顔は火照っている。凄く暑い。
 ブローズは私が見つめると、逃げるようにして目線をずらした。ややあって、ブローズは口を開いた。
 「・・・俺は、最初様子を見るだけにしようと思って、ラダトームを抜け出したんだ。ぶちょうが幸せなら、そのまま帰ろうかなって・・・。でも、俺にはあまり幸せそうには見えなかった。・・・一緒に世界を周っていた時のおまえは、思い切りが良くて、いろんなことに挑戦して、いつも一生懸命で、俺たちを励ましてくれていたんだ。でも、時々うまくいかない事に遭ったりした時に、俺たちが、・・・俺が守ってやんなきゃって、そう思うようになっていった・・・。だから、俺が幸せにできたらって、思ったんだ。」
 ブローズは、宙を仰いだ。
 「でも、本当に幸せになるためには、ラダトームに残した仲間を救わなきゃならない。俺たちだけじゃあ、駄目なんだ。・・・そうなると、おまえもラダトームに戻るって言うだろ?俺が何と言ったって、絶対に引かない・・・。妙に頑固だからなあ。そうなると、果たして、守りきれるんだろうか・・・。不甲斐なく悩む俺が、とても腹立たしい。」
 ふっと息を吐いて、ブローズは私を見つめた。
 「こんな風に、俺はよく悩んだり迷ったりする。でも、もう一人じゃなかったんだよな。ありがとうな。」
 ブローズは私の手を取った。
 「全部終わったら、二人でおふくろさんの所に、帰ろうな。」
 ブローズの姿が歪んだ。私はうなずくことしかできなかった。本当にありがとう、ブローズ。
 「・・・さてと、準備は良いかね?」
 絶妙なタイミングでマーキユは、私達に声をかけた。私は慌てて、袖で目の端を拭い、立ち上がった。ブローズの手が、強く握り締められた。私はブローズの手を握り返し、彼の首筋に顔を埋めて体中を彼の匂いで満たした。
 「頑張ってくるね。」
 私は去り際に、首筋に口付けた。マーキユに導かれるまま、赤い更紗の布をくぐった。
 後に残されたブローズは首筋に手を当て、呟いた。
 「・・・いきなりは、反則だよな・・・。」

 特にすることも無く(得たいが知れなかったので、何もできなかった。)、ブローズは悶々と時間を過ごした。ドラゴンは、膝の上で大人しく丸くなっていた。
 そのドラゴンが、不意に身じろぎし、赤い更紗の布の掛かる部屋の方を見つめた。ドラゴンはブローズの膝を降り、とことことその部屋の方に向かっていった。ブローズはその後を追い、部屋の前に立った。
 部屋の中からは、花のような良い匂いが漂っていた。
 「さあ、お入り。」
 目の前に垂れる緋色の更紗は、風も無いのにひらりと舞い上がった。

 部屋に入ると、微かに甘い匂いが鼻腔をくすぐった。悪い匂いではない。寧ろ、匂いの源を求めて、ブローズの鼻はひくひくと動いた。
 匂いの元は、すぐに見つかった。彼女の眠る枕もとのテーブルに、小さな香炉が置いてあった。そこからは、白い煙が筋となって立ち昇っていた。
 彼女はぐっすりと眠っていた。知らずブローズの口元に、笑みが浮かんだ。何事をしてこうなったのかは不明であるが、彼女が望んだとはいえ、やはり苦しんでいる姿を見るよりも、安らかな表情を見せてくれた方が安心する。
 「よかったな・・・。」
 ブローズは、ほっと息をついた。
 と、体の奥から熱くなっていくのを感じた。いつのまにか、手のひらは熱を持っており、喉が乾いているのに気がついた。ブローズは首を傾げた。そして、目の前には彼女がいた。
 額にかかる前髪の、すぐ下には長い睫毛。それに挟まれた通った鼻梁。ふっくらとした頬はほんのり赤く、いかにも柔らかそうであった。顎から首筋、鎖骨、むき出しの肩にいたる滑らかな曲線は、磁器のように白く艶やかであった。更にそこから薄い布に覆われた胴体と四肢は、光に照らされ陰影を明としていた。つっと上向いた双丘は静かに上下し、体を被う薄い布のしわの形を変えた。くびれた胴に付随する腰と二本の下肢も見て取れた。以前の、女性にしては無骨な感じのする身体つきが、優しくまろやかになった。
 ブローズの喉が鳴った。触れたい、と思った。
 恐る恐る指を彼女の頬に伸ばした。指先が震えていた。
 多分、指が触れた後には、もう止まらないだろうと思った。それだけでは足りない、もっと、全てを知るために、自分は・・・。
 頬に指先が吸い付いた。それは、見かけ通り柔らかかった。
 頬から顎へ、首筋へ、そして肩へ。外気に触れた肌はひんやりと冷たかった。
 ぞくり、と鳥肌が立った。指先は温もりを求めた。この薄い布が邪魔だった。
 こつん、と硬い物が触れ合う音がした。
 大きい音ではなかったが、それだけでブローズの心臓は縮み上がった。心臓の音が頭に響いていた。薄布の端をつまんだままの、硬直した体をぎこちなく動かした。
 ブローズは情けない表情でマーキユを振り返った。
 「・・・マーキユさん・・・・・・。」
 泣きそうな表情のブローズに、マーキユは苦笑して近づいた。
 「なんて情けない顔をしてるんだい。どうやら、成功したようだね。」
 「成功、って・・・。」
 マーキユは香炉を手に取り、火を消した。残煙を煽いで散らし、香炉を枕元のテーブルに戻した。そして枕元に立ち、静かに眠る彼女の髪を整えた。彼女を見下ろす眼差しは、午睡のように穏やかで、陽光のように降り注いでいた。
 「この香はね、女が男を惑わすために使うのさ。女が香を嗅ぐと、体から男の性欲を刺激する匂いを発する。その匂いを男が嗅ぐことによって、男は惑わされるのさ。この香自体が多少は媚薬の効果を持っているから、男が使うこともできるんだが、女が使うよりも効果は薄い。・・・この体は女だと主張できる者が、使うべき物だろうね。」
 そう言うと、マーキユは視線をブローズに移した。眉を上げ、口元には笑みさえ浮かべてブローズに問うた。
 「効いたかい?」
 含み笑いにからかいをにじませて、マーキユは首を傾げた。その様子に、ブローズは肩を落としてため息をついた。
 「・・・もう、降参です。本当に、止まらなかった・・・。溜めに溜めてきたから、多分お香なんか無くても、駄目でしたよ。ああ、もう、何言ってんだろう。」
 「おや、お邪魔だったようだねえ。さあさあ、年よりは退散しようか。後は若いもの同士、仲良くやっとくれ。」
 「・・・からかわないで下さいよ・・・。意識のない女に手を出すほど、落ちぶれてないですよ・・・。」
 「まあ、そのせいで、溜まりに溜まったんだろう?」
 「・・・・・・・・・。」
 「ほほほ、やるときにやらなくて何をやるんだい?・・・まあ、あんたらしいよ。」
 マーキユは、眠る彼女の肩口まで薄布を引き上げた。そして、ブローズを誘い部屋を出た。
 中央に設えたテーブルには、湯気の立ち昇るティーカップが二つ置かれていた。マーキユは、一方のカップをブローズに指し示し、自らはいつものイスに腰を掛けた。
 ブローズもカップのすぐ近くにあったイスに腰を落ち着け、一息ついた。カップを手に取り、匂いを嗅ぐ。
 花のような、澄んだ甘い匂い。
   「薬なんか入ってやしないから、安心してお飲み。」
 そう言われて、ブローズは恐る恐るカップを口に運んだ。そっと中身を口に含む。
 「・・・・・・!うまい・・・かも。」
 マーキユは、満足げに微笑んで答えた。
 「そりゃあ、そうさ。この微妙な甘味の加減と調和する香り。あたしがこの味に辿りつくまでに、一体何年かかったと思ってるんだい。」
 「・・・何年って・・・?」
 答えは返ってこなかった。マーキユは口の端に笑みを刻むだけで、何も言葉を発しなかった。
 ブローズも、あえて聞き返そうとはしなかった。
 闇の中に沈黙が満ちた。耳鳴りが大きくなっていく。
 沈黙に耐え切れずに、ブローズはカップの中身をすすった。先程から結構な量を飲み干しているはずなのに、カップの中身が一向に無くならないのは不思議だった。
 「ラダトームへ行くのかい?」
 マーキユの不意の問いかけに、ブローズは一瞬答えに詰まった。心の奥底まで見透かすようなマーキユの瞳に見つめられ、思わず視線をそらした。指先で、カップをもてあそんだ。
 「仲間を、置いてきてしまったから。それに、傷つけた人たちにもちゃんと、・・・ちゃんと・・・。」
 「少し肩の力を抜いたらどうだい?そうだ、私の話を聞いておくれよ。・・・なに、昔々の物語さ。きっと気に入る。それに、どうせあの子は当分目覚めやしない。」
 「・・・なら、あいつが寝ているうちに、全て終わらせられるかもしれない。そして・・・。」
 「・・・そして?」
 「あいつと、幸せになるんだ・・・。」
 マーキユは密かにため息をつき、喉の奥から声を絞り出した。
 「・・・今のままじゃ、何も終わりはしないよ。事の起こりを、成り行きを、知っていなければ、何も変わりはしないのさ。」
 マーキユはテーブルの上に肘をつき、両手に顔を埋めた。
 「年寄りの、昔話だと思ってさ、聞いておくれよ・・・。」





    根因編 1 に続く







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終わらなかったらどうしようと、通勤途中に必死こいて考えてます。
携帯で打って、自宅PCに送って、携帯で打って、自宅PCに送って・・・。
・・・電車の中では携帯の電源を切りましょう。

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